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無力なかかりつけ医

開院してまだ数日のある日、その方はクリニックに奥様と二人でやって来た。
他院で処方されていた定期薬を今後はこちらで出して欲しいと。
家が近かったとはいえ、出来て間もないクリニックに夫婦で転院してきてくれたその気持ちが嬉しかったのを覚えている。
どうなっていくのか先の事は分からないけれど、かかりつけ医として一生関われたらなと…。
「普段はそんなに仲良くないよ」なんて言いながら毎月一緒に来院され、どう見ても仲の良い理想のご夫婦でした。

ある日、将来についての不安を口にされた。
「今は元気だが、通院できなくなったらどうしようか…先生は家に来てくれるのか?」と。
基本的に在宅医療は承っていないが、その方に限っては頼まれるまでもなく往診でもなんでもするつもりでいたので、そのようにお答えした。
伝わったか分からないけれど「一生診ますよ」って。

その方はタバコも吸ってお酒も飲んで、好き放題やりながらとてもお元気だった。
当分はこんな状態が続くものと思って疑わなかったが、転機は突然訪れた。
体調不良で来院され、胸のレントゲンを撮ったところ肺炎ではない何か変な感じ…半分水が溜まっているくらいしか自分には判別できず、すぐに総合病院へコンサルト。
その日のうちに入院となり、その後の奥様の報告では良くない状態との事でした。

本日、たまたま夕方に所用でクリニックへ行ったら入院先の病院から1通のFAXが届いていた。
治療の甲斐なく亡くなられたとの報告…入院してから2週間ほどでした。
最期まで診るという事は叶わず。
9年近くも毎月顔を見ていながら、そんなになるまで気付けなかった無力さ。
全然分からなかったけどな…元気過ぎて。

ご冥福をお祈りします。